ごきぶり日記287
それからのパリ
最後にパリに立ち寄ったのは、たしか15年前のことだったと記憶している。
アメリカ、カリフォルニア州サンタクララに住み、ニューヨークかマイアミを
経てロンドンのヒースロー空港に着く。そこからロンパリ線でシャルル・ドゴール
空港に飛ぶ、それから成田へ。こんな事を何10回と繰り返していた。
アメリカのようにいきなりピストルで撃ち殺すという荒っぽい犯罪が増えたわけ
ではなさそうだが、置き引き、スリ、かっぱらいという犯罪は相変わらずという
よりも、さらに悪くなったと聞く。
こういった現象はパリに限ったことではなく、ローマの方がもっとひどいと思う
が、旅行者にとってはやはり「危ない街」として不安を誘う。
手口としては、神業のような置き引き、洋服に飲み物などを掛けて、脱がせて
奪う、地下鉄などの抱きつきスリ。(大勢で乗り込んで来て、真ん中のポール
近辺に強い力で押しつけ、ポケットなどの金品をスリ取る、などの伝統的な古い
手口に加えて最近では、カモの荷物に段ボールを掛けて、それに気を取られている
うちに、もう一人が手を突っ込んで荷物から金品を抜き取る。あるいは警官を
装って呼び止め、パスポートや財布の提示を求める。金目のものがあればそのまま
車で遁走する。姿は警官と紛らわしい服装で車は普通車。車を止めて如何にも職務
質問のように呼び止める手口である。
こうした犯罪者はジプシーでイタリア人、フランス人といったいわゆる西洋人は
いないらしい。しかもジプシーは不法滞在者が多いので、捕まれば国外退去に
なる不安を抱えている。
ホテル近辺を歩いていると案の定、二人組の女の子が前を歩いている。顔は浅黒
く、着ているものも粗末である。目的も無く歩くその腹は膨れており、下の方から
段ボールが覗いている。“これは何だ?!”と見え隠れする段ボールを突っついて
やった。
こんな相手には近づいて来ない。これはある人の話だが、荷物に手を突っ込んだ
現行犯を捕らえて、その腕を高く上げて“スリだ!”と叫んでも周囲の人は
反応しなかったそうである。つまり、知らん顔ということらしい。
目くじら立ててこんな犯人を捕まえるという気が無いということになる。確かに
単純な犯行手口なので気をつけていれば取られることはない。
“大仰に騒ぎなさんな”というところである。だから彼ら彼女らはキョロキョロ
している日本人観光客をよく狙うという。
ラ・デフェンス。少なくとも前回までの訪仏ではこんな街は無かったのだから、
その後に出来たことは間違いない。平成元年頃かも知れない。“新凱旋門 夢の
ガラス窓”内面が総ガラス張りの門柱型ビルというところ。歓楽街の無いビジネス
向きの街だから新宿副都心とも違う。北西に伸びる地下鉄1号線の終点になって
いる。
ここから本物の凱旋門に行き、マロニエの並木道をマリーアントワネットのギロチン
処刑の場、コンコルド広場までのシャンゼリゼ通り、約4kmを友人の求めに応じて
そぞろ歩きと決め込む。
確かこの辺を横に入ると、星一つもつかない、無名だが静かでしゃれたフランス
料理店があった筈だがと思いながら歩くが、何せ15年前のこと、全く判らなく
なっていた。
それにしても歩道が日本のちょっとした車道ほどもある、こんなゆったりとした
散歩道が日本の何処かにあるのだろうか。パリの新緑はこの時期が一番美しい。
ホテルのロビー待合室から日本人観光客が追い出されている。
「どうかしましたか?」と聞いてもフランス語だから何で追い出されたのか判ら
ない様子である。その待合室に代わって何処かの航空会社のクルーが入って行く。
フライトアテンダント(スチュワーデス)は濃いエンジの制服の制帽で固めて
いる。
「何処の航空会社ですか?」と英語で聞くと返事はしてくれるのだが、全く聞いた
こともない会社である。何故日本人が追い出されたのか、これは後日談なのだが、
追い出したのはホテルのセキュリティ(変な人間が入ってこないように見張って
いる役)で、彼はウクライナの出身である。そこへ母国の航空会社(その会社は
ウクライナ航空であったのだ)のクルーが入って来たので、日本人を追い出して
母国人にサービスしたということが判った。
いろいろな民族が混在する社会で、こうした出来事を咎めるのが良いのか悪いのか
難しいところである。折しもフランス大統領選の第一ラウンド。何があろうがパリ
は変わることなく生きている。
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