ごきぶり日記155
地獄の底を見る
ある中小企業で営業マンを数人採用した。いずれも有名大学卒、有名企業の出身
の年輩者である。出身といってもご多分に漏れず大企業の放出人事だろう。
今は何処の会社にも「業務開発部」とか「人材開発部」という部門があって人員
削減、再配置に一生懸命である。意地悪く言えば人身売買かも知れない。
中小企業にとって、人材は喉から手が出るほど欲しい。一流大学を出て大企業の
社員として無難に過ごして来た人なら、出来るに違いないと思うのも人情である。
自発的、非自発的に関わらず、大樹から離れて第二の人生で頑張ろうとやる気を
出す姿は、ほのぼのとした気分にさせられる。だが、話はそんなに簡単では無い。
大企業で何らかの管理職を経験し、永い間その環境に浸かれば、人はその世界し
か知りようがなく、自分の持てる能力とは何なのか、自分は一人で何が出来る
のか、皆目分からなくなる。
企業がリストラのため、再教育と称して外部の機関に人間再生を依頼する。
再就職出来るように改造し、放出するためなのだが、これが何年も掛かる難事業
だということはマスコミでも再三報じている。
それでも、その会社は“人間改造は出来るもの”と信じ、敢えてそれを実行し、
やがて数ヶ月になる。
大企業もリストラの正念場はこれからである。設備投資が伸びなければ景気は
回復しない。だが過剰設備は一向に減らない。これからは情報化投資だというが、
情報化によってどれだけ人員が削減出来るのかは、どれだけ人員が減らせるかに
掛かっている。詰まるところは人減らしであり、リストラをどれだけ本気でやる
かを市場は息を詰めて見守っている。
持株会社化するも、しないも地獄の試練が待っている。だが、社員はこれから
何が起こるか全く知らされず、どうなるかと不安におののく。
企業は社員の個性を伸ばし、人間として如何に生きるかを教えることもなく、
自社の型にはめることによって、売上拡大利益最優先に走り続けて来た。
大樹の元に居れば、背後に輝くネオンサインが受注を呼び、随契で幾らでも甘い
仕事が飛び込んできた時代に生きてきたのだから、市場原理など知る必要も
なかっただろう。
考えることは内部の人事、組織、人間関係、それに自分の昇進だけだから、突然
に、これからは大競争時代だ、市場原理だ、力のある者だけが生き残る個の時代
だ、などと叫ばれても、人間の本姓に根付き、あたかもDNAのようにとけ込んだ
この習性は簡単に変わらない。
変えようも無い人間性を作って来たのは日本そのものであり、社会であり、企業
なのだから何とも悲しい。
トヨタが持株会社制を考え直すといった記事が新聞の片隅に載っていた。
カンパニー制や持株会社化を進めたら必ず良くなるという保証など何処にも無い。
一つ間違えば、規模の縮小によって力をなくす可能性を秘めた剣が峰であること
を経営者は知っている。
大手証券会社のノンキャリア組が飛び出して親会社より有望株として評価されて
いる証券会社があることは知られている。人間の悔しさ、負けじ魂、挑戦の気概
が、やれば出来ることを示す好例である。この人間の可能性を引き出す努力を
せず、組織いじりや単なるリストラをやれば、当座は利益が出るものの、長続き
しないことは火を見るより明らかというものだ。
先の営業マンはどの道を辿るのだろう。既に“やはり駄目か”というつぶやき
も聞こえて来る。現代は「地獄の底を見る」機会が少なすぎるのかも知れない。
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