ごきぶり日記149
平成の鬼平
この人の語録を聞くにつけ、なんだか日本人の「心」が退化してしまったように
感じ、恐ろしい想いがする時がある。
バブルのせいだと言えばそれまでだが、日本有数の金融機関の最高の立場に
あった人間が、住専に不良貸し出しを斡旋して、その非を認めず、あくまでも
口を拭う。エゴの固まりで、良心のかけらも感じない輩が支配していた日本。
これを胸のすくような切れ味と度胸でえぐり出し、白州に引き出す糸口を
つけた人。“平成の鬼平”こと、中坊公平さんの退陣である。
池波正太郎原作「鬼平犯科帳」火付け盗賊改め方の長官、“長谷川平蔵”
人呼んで鬼の平蔵は、未だに多くのファンに囲まれている。
鬼平は剣を持てば比類無い達人で、悪に向かえば容赦ない鉄槌を下す。
血も涙もある裁きは、悪に染まった盗賊までも改心させ、密偵として命を捧げる。
根深い信仰にも似たファンが多いのは、これが“日本人の心”だからではある
まいか。
ところが現実は金融機関に限らず、自分だけが儲かれば良いというエゴの充満
した社会になってしまった。中坊さんの回収努力に対しては闇の世界を含めて
あらゆる妨害があったことだろう。鬼平が極悪人につけ狙われたように、彼も
命を懸けた勝負であったに違いない。
鬼平に溜飲を下げ、拍手喝采を送る観客も、勧善懲悪は書き物の中でのことで
あり、現実には見て見ぬ振りをする。
バブルの生んだ最大の落とし子は、日本人類最高の遺産である仁義と人情を
振り落としてしまったことにあるようだ。エゴの固まりのような自己主張は
日常の人々の行動に表れ、この世の中に自分だけが存在し、自分だけが儲かり、
自分だけが安泰であることだけしか考えない、ギスギスした社会を作り出した
ようである。恐ろしいことに若者がこれを見事に伝承している。
悪のはびこるニューヨークのダウンタウンで、地図を広げて人に道を聞こうと
しても、人々は透明人間のそばを通るように、一瞥も与えないで通り過ぎる。
身の危険を防ぐ生活の知恵なのだが、この殺伐とした人間関係が日本の社会に
置き換わってしまった。
バブルが崩壊して飢えとひもじさを知り、同時に心を取り戻すかと、一時は
儚い期待を描いたが、何も変わりそうにない。
広沢虎造の名文句に、差別用語丸出しの「馬鹿は死ななきゃ直らない」という
下りがあるが、もう一度敗戦のような振り出しに戻らなければ、日本人の心は
戻って来ないのかも知れない。
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