ごきぶり日記143
乗り継ぎはご勝手に
JR南武線。川崎と立川の間を約一時間で結ぶ。
その昔は京浜工業地帯に労働者を運ぶ“工員電車”と呼ばれていたという。
貨物列車の間に何輌かの客車が挟まって、まるで物を運ぶように人たちを詰め
込んで、ちんたら、ちんたらと走っていたのかも知れない。
立川から登戸までの沿線には未だに梨畑が並び、田園の趣をいっそう濃くしている。
それだけに、この沿線は一向に発展しない。登戸駅では小田急線、溝の口駅では
新玉川線、それに武蔵小杉駅では東急東横線と交差するのだから、そんな不便な、
ド田舎を走っているわけでもないのだが、駅舎はペンキを塗り替える程度で、
半世紀もその姿を変えようとしない。これが私鉄だったらどんなにか変化し、
便利になったろうにと残念がるが、どうしようもない。
この線もようやく高架に動き出し、武蔵小杉、溝の口などが姿を変えつつある。
だが、やれやれこれでやっと便利になると思ったのは大間違いであった。
以前、武蔵小杉駅は南武線を降りると名ばかりの改札を通り、すぐに東横線の
ホームに出られたし、そのまま同じ切符で綱島街道側の出口に出ることが出来た。
ところが、立派に改装された今は、この道が閉ざされ、南武線側では一旦、
改札を出なければならない。それから階段を経てまた、改札でまた新しい切符を
買う。
前述の東横線の反対側の出口に行くには商店街を通り、大きく迂回しなければ
ならなくなってしまった。
溝の口駅も立派になった。然し此処も新玉川線、大井町線への連絡通路はない。
人々は大いに不便を感じているだろうが、誰も文句を言うでもなく、黙々と
歩いている。
駅を高架にして大改装をやるとかえって不便になる。「JRと私鉄は余程、仲が
悪いんだな」と話していたが、この問題が新聞で大きく取り上げられている。
「きつい階段、ホームは遠い・・・」 駅乗り継ぎ改善本腰−運輸省
(1999年6月28日 朝日新聞一面トップ)
「駅に新しい鉄道が乗り入れたり、すぐ近くに新しい駅が出来たりすると利用客
に取っては便利だが、既存の鉄道会社にとっては、新しい路線に客が流れる恐れ
がある。また、乗り継ぎをスムーズにするための階段や通路の工事には多額の
費用がかかる。こうしたことから、運輸省によると乗り換えを円滑化する相談を
持ち掛けた鉄道会社に対し、既存の会社が“場所がない”と難色を示したり、
費用負担で話がまとまらなかったりすることが少なくない」とある。
先の話などは永い歴史をもち、二本線の交点なのだから他へ乗客が流れるも
流れないもない。要するにお互いの利害が先に立って話が始めから出来ないと
いうことである。そこには自社の儲けしか念頭になく、お互いの損得だけで、
いがみ合っているということになる。
行政は工事すれば税金を軽減するとか、勧告しても従わなければ、社名を公表
するという飴と鞭を考え出した。だが、これも相変わらずのお役所のお節介。
本質は公共交通機関としての社会的責任と乗客へのサービスという経営ビジョン
があり、お互いに良識で話し合う問題だと思うのだが。
競合が激しくなり、企業経営が難しい局面を迎えるに従って理念が失われ、
ますます住みづらい世の中になる。南武線が単線運転で、短いホームでは
後部車輌のドアが開かず、うろたえていた時代の方が人間的だったのかも
知れない。
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