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DIARY

ごきぶり日記139

ある酔っぱらい運転


この話も既に時効を迎えている旧い話である。
昭和 58年 6月。ある友人が結婚することになった。式場はサンフランシスコ から、ゴールデンゲートブリッジを渡って、ほんの10分とかからない、 サンフランシスコ ベイエリアを対岸に展望する景勝のリゾート、サウサリト (Sausalito)である。此処に、まことに慎ましいが、厳かな教会がある。

小さな町だが、私は此処が気に入っており、よく訪れる。急な坂道の上に建って いるホテルのレストランが、大きなテラスのように港に向かって張り出しており、 広大なサンフランシスコ湾を展望しながらゆっくりと食事が出来る。 遠来の客があれば、必ず此処に招待していた、大好きな場所であった。

この時、東京からも数人の友人が教会に集まった。少人数ながら、都会の仕掛け られた結婚式にうんざりしている心には、質素この上ないが、何とも心温まる 結婚式であった。
パーティは、土地に詳しいアメリカ人の計らいで、場所を移して小さなレスト ラン。これも飾るものとて何もない。だが、こんな雰囲気は周りも幸せにする のだろう。楽しいひとときであり、忘れられない想い出として残っている。

この友人が、間もなく事件を起こす。彼に取っては一生、触れて貰いたくない 想いであることは分かっているのだが、これも歴史であり、勝手ながら何とか 許して頂くことにする。

ある金曜日の夕方、日本からの大勢の来訪者があった。誰だか覚えていないが、 我々はある集団で会食することとした。 丁度その時、彼の親友も来訪したので、こちらの方は二人だけで、食事をする 事になったらしい。

以下は本人たちと、警察の調書を合わせた推論である。
二人は特に暴飲をした訳ではない。だが、だが、この二人は特に気心の知れ合った 仲だから、飲みながら話が弾んだに違いない。

それじゃあね。と別れ、それぞれの車に乗った。帰り道、彼はどうやら高速を降り る場所を間違ったらしい。
フリーウェイはほぼ、1/4マイル毎に何処からでも降りられる。木立が鬱そうと して道は真っ暗であった。いきなり、何かに追突をして車が何回転かする。 彼ははそのまま、気を失ったらしい。らしいというのは、本人も覚えがないから である。

だが、調書によれば警官が駆けつけたとき、ドアをロックして出て来ようと しなかったとある。この点が警察の心証を悪くしてしまったらしい。 即時、血中アルコール濃度を調べ、その場で手錠を掛けられ逮捕された。 時は金曜日。翌日は週末の休みだから、誰もそんな事は知る由もない。

奥さんからの連絡で何人かが慌てた。保釈金は4000$だという。 週末で銀行は開いていない。誰も現金で4000$など持っているわけがない。 「仕方が無い。週末は泊まって貰おうか」などと、人の痛みは3年でも我慢する 式の無責任な事を言って諦めかけていた。
この彼を救ったのは新妻の奥さんであった。奥さんは、イギリス留学の経験を 持っていたそうで、Jail(牢)の隣には金貸しがいる事を知っていた。 即時、そこで金を借り、保釈となった事を関係者は皆、後で知る事になるの である。

会社はカンカンになって怒っている。だが、彼はそれどころではない。 法廷と裁判が待っている。最も軽い刑で、黄色いチョッキを着て道路のゴミ拾い を2〜3日、重ければ数日の入牢である。 加えてアル中の矯正のために教会に通わなければならない。「アメリカは犯罪 が多く、殺人犯と一緒に入れられるのではないか」など無責任な話になるから、 心配はどんどん膨れ上がる。

結局、数日の入牢になったが、「アメリカの Jail など誰も経験した事がない のだから歓送会をやろう」などと元気づけたつもりであったが、人一倍真面目 な本人にしてみれば、何とひどい人たちか、と恨んだに違いない。
でも、不思議なことにアメリカに住んでいると誰もがこんな性格になる。 日本なら差詰め遠巻きにして、触れないように、でも大きな関心と興味を持って 眺めているところだろうが、現地では励ましにもならない脅かしで勇気づける。 「アメリカは何でも自分で対処しないと生きて行けない」という気風がこうさせる のだろうか。

本人の名誉のため、ことわって置きたいが、これは前科にはならないのである。 今は昔話として懐かしく想い出しているだろうことを願っている。

 

 

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