ごきぶり日記137
香港の終身雇用制
香港の公共テレビ放送、香港電台 副編集長の馬さんから電話を頂いた。
日本にやや遅れて香港も不況のさなかにあるらしい。そこで企業はこぞって
終身雇用制の廃止を打ち出した。日本人のようにおとなしくはない。
街にはデモが頻発しているという。
終身雇用制。 J.C Abbeglen がその著「The Japananes Factory」(1958)で
使って以来、世界用語になったと云われる。
大正初期から形作られてきた、日本の家族制度を取り入れた経営形態だそうで、
経営家族主義とも呼ばれている。
学校を出て会社に入り、無事定年退職するまで、従業員を家族の一員と見立て、
濃密な人間関係を作り上げることによって企業への忠誠心を培う。
そう云えばつい最近まで“転職は悪”という意識があり、労働組合も首切りには
団結して闘っていた。
この経営形態では、終身雇用、年功序列賃金、企業別組合が三種の神器として
セットになっている。欧米に比べて賃金は低く、安い基本給をベースにして
毎年の定期昇給で勤続年数に応じて昇給する。
途中で会社を辞めようものなら雀の涙ほどの退職金だが、定年まで勤めればそれ
なりに大きな金額になる。
低賃金を補うために家族手当などの諸手当が多い。特に福利厚生費、そのうち
でも法定外福利の割合が大きい。税制もこれに呼応して、法定外福利費を費用と
して認める優遇策を取ってきた。
人件費は決まった家族の養育費だから、固定費と見なされる。つまり、企業が
一つの家族であり、場合によっては一つの社会となり、社会保障や生活保障も
行う。こうなれば必然的に企業への愛着心、忠誠心も大きくなる。
日本でも終身雇用制が崩壊しつつあるという報道が頻繁になされている。
馬さんが、マスメディアとして知りたかったのは、香港の変化に対して、
現在の日本の終身雇用制崩壊の実体だったのだろう。
“恐らく、多くの会社がこのシステムを廃止しつつあるのだろう。
では、その企業はどうやって多くの問題を解決したのか”という考えから出た
テーマだろう。
日本の報道が実体を表しているなら、興味ある取り上げ方ではある。
「実体は違うと思いますよ。大体、この日本的経営を真っ向から否定したら
日本の企業は自己否定しているのと同じでしょう。
これに変わる精神的バックボーンは、すぐには作れませんからね。
でも、生き残らなければならない。だから、高年令層の給与の頭打ち、年金制度
の見直し、退職金の前払い、福利厚生など給与システムの見直しなどに手を付け
つつある会社は確かにありますよ。でも、本質は変わらないでしょう。これから、
新しく会社を作るなら、過去のしがらみが無いから出来るでしょうが」
と締めくくった。
この「日本的経営」は日本の土壌から生まれた、日本だけのシステムと思って
いたが、香港が少し遅れて、同じ問題で悩み出しているということは意外で
あった。
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